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こころの専門家リレーメッセージ
「子どもを診立てる」とは?
児童精神科医・精神科医
武士 清昭
こころの専門家スタッフの武士です。
Welcome to talkオンライン健康相談では、生徒・学生の不安や悩みに関する相談をお受けしていますが、本日から4回にわたり、医師の立場から、思春期特有のこころの病についてお話しさせていただきます。
ちなみに「診立てる」とは、治療方針を決めるために、患者さん本人や家族など周囲の方のお話を伺ったり、必要な場合には検査をしたりして、その方がどんな状態にあるかを見極めることです。
私が精神科で働き始めた頃、教授や先輩から「子どもたちを診ることは大人を診るとは違う」と言われました。「まぁ、そうだろうな」と思う一方で、どのように違うのだろう?という疑問を持ちました。
診断名の違い?
検査の違い?
処方する薬?
親子関係の影響?
発達が絡んでくる?etc.
そもそも、対象の「子ども」とは、業界や法律によって言葉も定義も異なります。
今年から成年年齢が18歳に引き下げられ、18歳以上は成人と見なされるようになりましたが、日常生活では未だ20歳未満を指すことが多いように思います。
精神医学の世界では18歳未満を「児童」、18歳以上を「成人」とする一方で、児童精神科の外来では診療対象を中学生までとする病院がほとんどです。薬剤の添付文書では15歳未満を「小児」と言い、小児科の臨床対象は基本的に中学生まで、とされています。
児童福祉法では、「少年」とは小学校就学の始期から18歳未満を、少年法では「少年」とは20歳未満を指します。
ちなみに精神科臨床において「思春期」とは、10歳から(最近では)30歳までとする分類があり、前期・中期・後期思春期に分かれます。いずれにしてもほぼ20年という長い年月を対象としています。
成人の臨床場面でも、患者さんの診断や治療を考える手立てとして、子どもの頃の特性や環境にまで遡って話を伺うことが多く、私が児童精神科の専門医に興味を持ったきっかけでもありました。
児童精神科の難しさは、同じ症例でも着目点によってさまざまな評価に分かれてしまう点です。成長過程にある子どもたちは、環境によって見せる顔が変わってきます。
例えば、学校と家庭ではキャラがまるっきり違う、なんていうお子さんにもよくお会いします。例えば学校では休み時間もずっと1人で不安そうに過ごしているのに、家では動画を見てゲラゲラ笑っている、なんていう話はしょっちゅうです。
このような話を聞いたときに、我々は学校の話に重きを置くのか、家の様子を聞いて、判断を軽くするのか迷うことが少なくありません。臨床場面においては、その時の判断によって治療法も本人へのアプローチも変わってしまうため、多角的かつ正しい評価は重要です。
特に初診においては
① 「病気」として診る
② 「環境的要因」から診る
③ 「発達要因」から診る
の3方向からの診立てを大切にしています。
偏った視点からの評価は不適切になりがちであり、私は常に3方向からのバランス感覚を忘れずに診療・診断に当たるように心がけています。
次回は、最近話題にのぼることの多い「発達障害」について取り上げます。
『新世紀エヴァンゲリオン』/庵野 秀明 原作・監督
1995年のTVシリーズに始まり、その人気からプラモデルや解説本などの関連グッズや主題歌が大ヒットとなり、劇場版、リメイク版など何度も映画化。登場するキャラクターのこころの葛藤や、不登校やアダルトチルドレン、家族問題など社会状況も反映されたことから、文化人やファンの間で考察や議論が交わされ一大ムーブメントを起こした大作アニメ。昨年2021年には完結編が公開されましたが、ぜひTVアニメから観てもらいたい作品です。<この記事を書いた人>
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