BLOG

vol.22-3

ネガティブな感情を否定しない

精神科訪問看護の際に接している子どもたちからは「学校に行きたくない」「何もしたくない」「面倒くさいから死にたい」という訴えがありますが、どちらかというと「気持ち悪い」「お腹が痛い」「吐き気がする」など、まず身体的な症状を口にすることが多いように感じています。

 

身体の病気が隠れているのか、それともこころの病気が影響しているのかを話をしながら確認していきます。

 

いつからかわからないけど、学校に行きたくない。
学校でこんなことがあったんだ。
お母さんからこんな風に言われた。

 

ポツリポツリとこころの声が聴こえてきます。

 

保護者の方からは「学校に行かずにゲームばかりしている…」「だらしなくて困る…」「同学年の子どもより遅れてしまう…」といった悩みをお伺いすることも。その根底にあるのは「元気にイキイキと楽しく生活してほしい」という思いがあります。

 

保護者の方にも寄り添いつつ、どのように子どもたちを接していくかについて最適なサポートのあり方を一緒に考えています。

 

「なぜうちの子は…」と切なさを抱えるお母さんも多いのですが、お子さんの強みを改めて振り返ってみたり、ときに仲介者としてお母さんの気持ちをお子さんへ代弁してみたり。お子さま、保護者の方それぞれのお話を、耳をすまして聴いてみると、問題が徐々に明らかになることがあります。

 

そもそも悩みを打ち明けてもらうには、まず信頼関係が大切です。お互いを知ることから始めるため、最初の訪問は雑談で終わることも。生活上でのお困りごとに焦点を当て、お子さんの希望や「こうなりたい」という思い、保護者の方の希望を伺っていきます。そのうえで一緒に目標を考え、生活に密着したサポートができるようにこころがけています。

 

精神科訪問看護では、数名の看護師がチームを組んで、交替でご家庭に伺うようにしています。精神科の患者さんとの距離感は配慮を要することも多く、近づきすぎても遠すぎてもいけません。絆が育まれる一方で依存が生まれることもあります。遠すぎては思いを打ち明けてもらえません。個々の特性・症状だけでなく、とりまく環境も観察しながら、どのような距離感が良いのかをチームで話し合って訪問しています。

 

そのほか、こころがけているのは、「これが好き」だけでなく「これが嫌い」「これが嫌だ」というネガティブな感情を否定しないこと。また「死にたい」「消えたい」と訴えがある際も、その言葉の背景にある辛い気持ちや感情に考えを巡らせます。否定せず、逃げずに話を聴くのは時折しんどいこともありますが、本人はそれ以上に苦しい思いをしていることを忘れてはいけません。

 

「今ここで踏ん張らなかった私を、明日の私は許さないだろう」という気持ちで一人ひとりのお話を聴いています。

お問い合わせ
オススメの一冊

『十二国記』 

ファンタジー小説/1991年発売~シリーズ継続中/作:小野不由美/出版:新潮社
https://www.shinchosha.co.jp/12kokuki/

本シリーズで特に好きなキャラクターは『月の影 影の海』『風の万里 黎明の空』の主人公、陽子です。女子高校生だった陽子が、妖怪に連れ去られ、さまざまな苦難に立ち向かいながらも一国の王として「こうありたい自分」を確立していく姿が本当に素敵なのです。私自身迷ったときに「陽子だったらどうするだろう」と考えることがよくあります。

<この記事を書いた人>

Chino Yuriko
公認心理師・看護師
千野 由里子
Chino Yuriko
略 歴
新潟県出身。東邦大学医療短期大学卒業後、東邦大学医学部付属大森病院(現東邦大学医療センター大森病院)に看護師として勤務。総合内科、総合外科、救急外来、産婦人科、整形外科、神経内科、小児科、精神科等で幅広い経験を積む。精神疾患を抱える患者さんの生活をお手伝いしたいという思いから精神科専門の訪問看護ステーションに転職し、児童思春期・青年期を中心に、困りごとの解決をサポート。2021年、公認心理師免許を取得。現在は、医療安全に関するリスクマネジメントや医療従事者のメンタルサポートに携わる。
専門分野
看護
児童思春期・青年期
趣 味
プロレス観戦/アニメ・マンガ/ゲーム

月に1度のプロレス観戦は欠かせません。力と力のぶつかり合いのなかにも心理戦があり、痛みや苦しみを乗り越え、打ち勝つロマンを感じます。アニメ・マンガやゲームは子どものころから大好きで、今も週刊少年ジャンプを購読しています。
関連記事3