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こころの専門家リレーメッセージ
白黒つけない、あいまいさ
臨床心理士・公認心理師
原 美穂子
大学院2年次から携わった「東京都ひきこもりサポートネット」では、ひきこもりを抱える本人やご家族からの相談に応じていました。
ある日、ひきこもり当事者の方が電話の向こうで「相談員さんの声、ポジティブ過ぎるんだよね」と言われてハッとした経験があります。
ビジネス場面ではタイムリーに素早く判断することが求められますが、臨床心理学の世界では白黒つけられないことやあいまいであることも求められます。すぐに答えを出しがちな自分への戒めも込めて、相談に来る子どもたちの迷いや葛藤、相反する思いを抱える力を育てることを大事にしています。
学校や家庭では、周囲の大人たちは良かれと思い、子どもたちに「もっと前向きに」「頑張ればなんとかなる」「気持ちが足りない」と叱咤激励をする場面があります。大人たちの「こうあってほしい」を押しつけ過ぎているのかもしれない。
「いい加減な考えで進路どうするの?」の「いい加減」という言葉も、もともとの意味は“ちょうど良い”加減のこと。テストで求められる「適当」な回答は、適切な言葉を書きなさいという意味です。
スピーディーな決断が悪いということではなく、人は内面に同じくらいの葛藤を抱えていることを意識しておくだけでいい。人間とは“矛盾の塊”であることを意識するだけで相手とのコミュニケーションや関係性が変わってくるかもしれない。
こころのケアにおいては、“あいまい”な姿勢は支援者にも求められる姿勢であると肌で感じています。
また、周りからは大丈夫と思われている子どもが、自分の居る場に安心感や帰属感を持てず、その場にいるだけでひどく疲れたり、不安な気持ちを強く持っていることがあります。相手や場所を変えても、なぜかいつも同じような人間関係が繰り返されてしまい困っている(あるいは困らせている)子どもたちもいます。
このようなこころの状態は「病気」でしょうか。
学校や家庭で求められている機能を外的に果たしていることだけで「健康」といえるでしょうか。
人のこころは、「健康」「不健康」というように、安易に二分することができないものです。心理学では、「正常」と「異常」、「主観」と「客観」など、中間領域という言葉があります。子どもたちとのカウンセリングでは、こころの「中間領域」を大切にし、それが効果的に機能していくことをこころがけています。
「心のなかの勝負は51対49のことが多い」
心理学者の河合隼雄氏のベストセラー『こころの処方箋』からの一節。私たちは何かを決めるとき「YESかNOか」「学校に行くか行かないか」など二者択一で最終決定のみを意識しがちです。しかし実際は、こころの奥底(無意識)では、対立する考えが同じ大きさで拮抗しています。心理士として、患者さんのこうした揺れるこころを大切にしたいと思っています。<この記事を書いた人>
学校臨床
トラウマケア
▼紀要論文
「自然災害時に子どもの心のケアに携わる教員のニーズに関する研究 : 関東圏で東日本大震災を体験した教員のインタビュー調査」
http://id.nii.ac.jp/1419/00000250/
のんびりした田舎で遺跡巡りの旅もいいし、都会の美術館やショッピングも好きです。スポーツはライブ観戦がいいですね。大好きなF1レースの爆音はたまりません。