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vol. 8-2

つかんだ手を離さない

大学卒業後は、大学病院や診療所で児童思春期から青年期、認知症の高齢者まで幅広い患者さんを対象に臨床経験を積みました。勤務医として働いていた精神科専門病院では、在宅医療に力を入れていたため訪問診療にも携わるように。精神科の患者さんのなかには家族との関係が希薄だったり、家族にサポート力がなかったりする方がいます。国の政策で精神科病院での長期入院が難しくなるなか、病院と地域の支援機関が協力し、患者さんの自立をお手伝いしていました。

 

その傍ら、大学の学校医として学生のメンタルヘルス対策にも取り組んでいました。スクールカウンセラーが受け皿となり相談を受け、何らかの症状を呈する学生には学校医の私が対応します。不登校やひきこもりは精神疾患が関係していることもあるため、医師がスクリーニングすることも大切です。海外留学をする学生さんも多かったので、事前相談に加え、留学中に発症した学生さんのフォローや保護者対応、ときには恋愛相談も扱いました。


退学を未然に防ぐために大学としてどう関わればいいのか。

学校現場も熱心に学生のメンタルヘルス課題に向き合っていました。


保健所の嘱託医や診療所の勤務医だったときも、ひきこもりや不登校についての相談が多く寄せられていました。一か八かでご家庭までお邪魔するもご本人に会えずに帰るようなこともありましたが、多くの若者そして保護者の方が悩み苦しんでいる姿を見守ってきました。


現在は、産業医として会社員とその家族のこころと身体の健康管理についてアドバイスしています。海外に駐在する方も多いのですが、娯楽が少ない、日本語で相談できる場所もない、まして精神的な不調があっても病院にはかかりにくいこともしばしば。病気にならないことが何よりも大切なので、少ないリソースのなかで元気づけられる方法を常に考えています。


また、子どもさんが言語や文化・風習の違いからアイデンティティクライシスを起こしている場合も少なくありません。現地の生活に馴染めず落ち着かないだけなのに学校でADHD扱いされたり、親の期待が大き過ぎて悩んでいたり。そんな子どもたちから、こころの内を明かす言葉が引き出せると、ひとつハードルを越えられた気がして少しだけ安心します。


毎週診ていた患者さんが1か月に1回、2か月に1回の面談になると調子が良い兆しですが、患者さんから「今回は調子が良かったです」と言われホッとするのも束の間、翌日以降は不透明なので「予約外診察で来院するかも」と、綱渡りをしているような気分になることもありますし、「調子が悪い!何とかしてよ!」と不満を訴えに来る方もいます。


それでもつながろうとしてくれている限り、その手を離さないのが私たちの仕事だと感じています。

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コミュニケーションのワンポイント

楽しい話は思いっきり笑顔で。悲しい話は悲しい顔で。

表情をうまく使って話を聞くと、相手の気持ちに共感しやすくなります。そうすることで相手も「一生懸命に話を聞いてもらえた」という気持ちにもなるので、こころの距離が縮まりやすくなりますよ。

<この記事を書いた人>

Abe Nao
精神科医
阿部 尚
Abe Nao
略 歴
京都府出身。関西医科大学卒業後、同大学精神神経科に入局。大学病院や精神科専門病院で、子どもから成人、高齢者まで幅広い層を対象に臨床経験を積む。専門病院では地域医療にも携わり、訪問診療を通じて退院患者の地域での生活をサポート。その傍ら、保健所の嘱託医や大学の学校医として、引きこもりや不登校の支援にあたる。現在、産業医として会社員とその家族のメンタルヘルスケアに従事している。
専門分野
地域医療
双極性障害
産業精神医学(職場のメンタルヘルス)
趣 味
龍笛/料理/旅行
高校生の頃、感覚的に楽しめる笛に魅了されて以来、笛のコレクターです。最近、雅楽で使われる龍笛を習い始めました。
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