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こころの専門家リレーメッセージ
周囲を巻き込み、サポートを得る
精神科医
角 朋世
普段は、精神科医として精神科外来や病棟での診療業務の他に保健所での相談業務や産業医活動を行っています。
現在勤めている医療機関の外来では、大学生からの相談を受ける機会が多くあります。今の大学生は、高校から大学へライフステージが上がるときに新型コロナウイルスの影響を受けている世代。自粛期間の生活から一変し、現在は、慣れない対人関係に極端に緊張したり、朝起きられないのではないかという不安から眠られなくなったり、教室の中に多くの人がいることに嫌悪感を感じたりなど、抑うつ症状や社交不安の症状が出てしまった学生さんが多い印象です。
あまりにも症状が重く、外来治療だけでは改善が難しい場合には、入院治療が必要なこともあります。1人の患者さんの外来治療と入院治療を通して担当する機会も多く、症状が良い時も悪い時も診ることができます。患者さんが重い抑うつ状態から脱し、快方に向かい地域や社会に戻られるとき、一番のやりがいを感じています。
思春期世代の若い患者さんの診療に携わるときは、医師としてのやりがいというより、“成長のお手伝い”という感覚が近いと思います。当初は荒れていた中学生の患者さんが高校、大学へと進学し、大きく羽ばたいていく姿を見ていると、成長に寄り添えたようでとても嬉しく思います。
そして児童思春期の診療は、子どもたち本人の声だけでなく、ご家族の意見も大切にしています。
担当医の私は子どもたちの病院での姿しか見ることはできませんが、日常生活で常に関わっているのは家族です。日中は学校の先生方でしょう。子どもたちを見守る周囲の大人を巻き込み、協力を得ていくことが、本人の回復や成長には必要不可欠だと感じており、理解が得られるように日々努めています。
医療機関での診療の他に、都立高校の学校医として学校に足を運ぶ機会もあります。先生から生徒さんとの関わり方について個別に相談を受けたり、事例検討会で対応や対策を一緒に考えたり、必要に応じて医学的見地からアドバイスをさせていただいています。さまざまな特性をもつ生徒さんがいる教育現場で、学習指導だけでなく時にメンタルヘルスの対応もしなければいけない先生方のご苦労は大変なものだと思います。そんな先生方のお手伝いが少しでもできれば、悩んでいる子どもたちへの理解が少しでも深まればと考えています。
また、学校からのご要望で生徒さん向けにメンタルヘルスについて講義を行うことも。「こころの不調とのつきあい方」などをテーマに、セフルケアやストレスコーピングなどについてお話しています。「不調」が「病気」にならないように、子どもたち自身も対策ができるようになれば良いなと思います。
思春期時期の脳は成長中で不安定であるために不調を感じることは多く、ある程度の症状までは異常なことではありません。当たり前に起こってしまう不調やストレスとのつきあい方がポイントになります。また子どもたちは気持ちを言葉でなく行動に出すことも多いのが特徴です。
子どもたちを見守る大人は、「なぜその行動をせざるをえなかったのか」について目を向けることが大切です。
夏休み明けの9月は不登校が増える時期と言われています。学校に行こうとしない子どもたちが、大人の目には怠惰そうに見えるかもしれません。しかし、長期休み明けに日常生活に戻ることは大人にとっても億劫だと思います。その億劫な時期は、脳神経的にも人格形成的にもまだまだ未熟で成長段階の子どもたちにとっては大人以上に負担が大きなものです。
それをなんとか乗り越えようとしていることを、私たち大人はいつも以上に温かく肯定的に捉えていくことが大事だと思います。
『失ったものばかり数えるな!無いものは無い!お前にまだ残っておるものは何じゃ!』
マンガ『ONE PIECE』で主人公(ルフィー)が冒険に出て、初めて大きな挫折を味わい大切な物を失ったとき、先輩キャラクター(ジンベイ)がルフィーに向けて放った言葉です。生きていればどこかで、思い入れのある物を失ったり、挫折したりすることがあります。でも、たいていの場合、すべてを失ったわけではないと思います。世界は0か100ではありません。何か大きなことで気持ちがしずんだとき、私自身もこの言葉を思い出しています。<この記事を書いた人>
3歳からクラシックバレエを始め、中高はストリートダンスにハマり、大学ではダンスサークルに所属していました。今はダンスを“観る”方が多くなりましたが、音楽を聴きながら身体を動かすことは大好き。マンガは電子書籍でいろんなジャンルを楽しんでいます。