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vol. 11-3

変化を期待しすぎない

精神科の著名な先生が論文に書かれていた一節です。


精神科医は患者さんを変えることを期待し過ぎず、悪化させないことを役割と考えなさいという教えです。「辛抱強く関わりを続ける」ことの大切さを強調されています。実際、日々精神科臨床に携わる者としてとても響く言葉です。


特に、家庭環境など心理社会的な要因からこころの不調をきたしている子どもたちは良い変化が出てくるまでに時間を要すると感じます。こうした家庭環境や思春期の状況は“しょうがない”ことも多い。精神科医・児童精神科医不足の問題も子どもたちにとってはどうしようもない“しょうがない”ことのひとつ。子どもたちの立場で見ると、3時間待ってテーマパークのアトラクションに乗られるならまだしも、精神科医に会うのではテンションが上がらないもの当然です。


それに、お会いする子どもたちは、自分の気持ちを話せない、自分の気持ちに気づけないことがほとんど。保護者の方も一方的な関わりになっていたり、子どもへの愛情はあってもケアが行き届いていないことも多々あるように思います。保護者の方にとっても、ママ友パパ友はいても、子どものことを相談できる人は少ないのかもしれません。


コロナ禍で、感染予防から患者数が減るなかにおいても、相談内容の変化は感じています。緊急事態宣言が発令されてから、外出自粛が求められ、学校の臨時休業も続いたことで、ゲームやスマホの利用をやめられなくなり臨時休業明けから不登校になった、自粛生活中にダイエットをしすぎてやめられなくなった、摂食障害を発症した、親御さんのテレワークが増えたことで強迫性障害を発症した等の相談が増えました。


自宅に“上手”にひきこもらなければならない状況のなかで、狭い部屋で親がテレワークをし、子どもが騒ぐと叱りつけるといった形で家族内葛藤がより強まり、家族関係が悪化したケースの受診も増えた印象です。


子どもたちにとって保護者の方や学校の先生方との関わりはとても大切です。周囲の大人は根気強くひたすら待つこと。その場の空気と表情を読むくらいしかできることはないのかもしれません。


しかし、子どもたちの普段の様子を知っている大人が声かけをすることはとても大切です。“しょうがない”ことだらけの状況に置かれているだけであって、子どもたち本人の問題だけではありません。そのことを周囲の大人が汲んで、思い詰めた表情をしているなど様子がおかしいと感じた子どもや生徒に「どうしたの?」と声をかけてみる。

 

その一言が良い方向に変わるきっかけになるかもしれません。

オススメの1冊

『モモ』

児童書・刊行1976年9月/作・絵:ミヒャエル・エンデ/出版社:岩波書店

https://www.iwanami.co.jp/book/b254851.html

時間どろぼうから人間に時間を取り戻そうとする少女モモの物語。世界中で愛される児童書ですが、流行り始めた頃、ケータイで忙しなくメールをしたり電話したりする同級生を目にするようになり、大学時代に初めて読んで感銘を受けた本です。当時部活をやめてリア充でなくなった自分のひがみも関係しているかもしれませんが、人と関わるうえで大切なことや人間本来の生き方を教えてもらいました。モモの相手の話を注意深く聴く姿勢も精神科医に通じるところがあります。

<この記事を書いた人>

Funatogawa Tomoyuki
児童精神科医・精神科医
舩渡川 智之
Funatogawa Tomoyuki
略 歴
栃木県出身。山形大学医学部医学科卒業。初期研修医時代の小児科研修での経験が児童精神科医を志すきっかけに。2年間の初期研修を経て、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室に入局。同医局の関連病院等で5年間の研修の後、東邦大学医学部精神神経医学講座の助教に就任。以来、一般精神科臨床の傍ら、児童精神科医としての臨床、精神病の予防や回復のためのデイケアの診療に携わる。
専門分野
児童精神医学
学校精神医学
予防精神医学
精神科リハビリテーション
趣 味
バスケットボール

中学時代はバスケットボール部に所属。今もシューティング練習だけは続けていますが、現在は観る側でバスケを楽しんでいます。シーズン期間中は、ほぼすべてのNBAの試合をインターネット観戦。職場のある大田区のプロバスケチーム「アースフレンズ東京Z」を応援しています。
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