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こころの専門家リレーメッセージ
人の強さにふれる
臨床心理士・公認心理師
谷田 征子
大学院時代は、総合病院小児科や保育園にて子どもの臨床に携わっていました。小児科では、起立性調節障害(朝起きられない)やお腹の痛み、摂食障害などの症状をともなう事例を扱っていました。保護者の対応や精神科医につなぐことも大切な仕事でした。
その後、5年間、東京都ひきこもりサポートネット主任相談員として、ひきこもり者やそのご家族の支援に携わりました。支援方法は、メール・電話・訪問の3つ。当時は、ご相談のほとんどがメールや電話から。同時に、相談テキストの分析も行っていました。
ひきこもり支援後の4年間、日本いのちの電話連盟にて、メール相談のスーパーバイザーとして遠隔の心理支援に従事しました。
メール相談や電話相談に携わるなかで、社会には聞こえていない声があることに気づかされました。彼ら/彼女らは、沈黙しているというより、沈黙させられ、いないことにされているのではないかと感じることがあります。長文のメールから、ずっと考えていたことを目にするたび、こうした声をひろっていかなくてはという思いで取り組んでいました。
現在は、大学院准教授として教育・研究に携わるかたわら、大学附属病院小児科にて、主に小学生から高校生までを対象としたカウンセリングや心理検査を行っています。心理検査は馴染みがない方が多いかもしれませんが、子どもへの心理検査は、絵を描いてもらったり吹き出しに言葉を入れてもらったりするもので、医師の依頼により心理士が実施します。最近の子どもたちは、検査に積極的で真剣に検査結果を聞くなど、すでに小学校の高学年あたりから「自分を知りたい」ニーズの高まりを肌で感じています。また子どもに加え、精神科クリニックでは成人のカウンセリングも行っています。
心理士としてたくさんの人にお会いしていると、人生はさまざまであり、苦しいなかにも生き抜いてきた人の“強さ”にふれることが多々あります。幼少期に親が亡くなったり離婚したり、時には虐待の問題もあったり。
トラウマを抱えながらも誰にも気づいてもらえず、誰にも気づかせず、よくここまで生きてこられたなと思う方も。生きづらさを感じて相談にお越しになる方も、弱くて困っているから助けてというだけではありません。その奥には、人としての強さを感じます。
心理士としていつも何ができるのかと自問自答していますが、相談者を一人の人間として尊重し、一つひとつの出会いを大切にしていきたいと思いながら日々の臨床にあたっています。
「Believing is Seeing. (信じることは、見ることである)」
心理学者のエリクソンが用いた言葉です。Seeing is believing.の主語と述語を敢えて反対に置き換え、まずは自分が思ったことを信じてみることから、自分なりの考えが生まれることを意味しています。この言葉を知ってから、私自身も迷ったときは、いろんな角度から物事を見たり、感じたりすることを大切にするようになりました。<この記事を書いた人>